小川和紙とは?その歴史や特徴、細川紙についても詳しく解説

小川和紙とは?その歴史や特徴、細川紙についても詳しく解説

小川和紙とは、埼玉県比企郡小川町周辺で生産されている和紙のことを指します。

その歴史は古く、1300年ほど前の奈良時代からすでにこの地で生産されていたと伝わっています。
日本全国各地で、和紙づくりを行なっている地域は数多くありますが、小川和紙の特徴や他との違いは何でしょうか。

本記事では、和紙の中でも「小川和紙」に焦点を当てて、その歴史や特徴、現在行われている取り組みなどをまとめてご紹介いたします。

 

[目次]

 

1. 小川和紙の歴史とは?その始まりから「ぴっかり千両」「風船爆弾」まで

小川和紙の歴史とは?その始まりから「ぴっかり千両」「風船爆弾」まで

 埼玉県比企地域における和紙づくりの歴史は古く、日本で紙づくりが本格的に国産化された時期とほぼ重なります。

奈良時代に編纂された「正倉院文書」によると、737年(天平9年)には、美作・出雲・播磨・美濃・越前などで本格的に紙漉きが始まったそうですが、774年(宝亀5年)の記述に「武蔵国紙」という文言が見られます。

この「武蔵国紙」が小川和紙の起源ではないかと言われています。

807年(大同2年)、現在の埼玉県比企郡ときがわ町に慈光寺が創建されると、写経が行われるとともにその料紙として和紙の生産が次第に増えていったそうです。

 

 やがて江戸幕府が開府すると、江戸の繁栄とともに和紙づくりも一層盛んになりました。

記録によると、比企郡・大里郡・秩父郡において、1817年(文化14年)には705戸、幕末の1868年(慶応4年)には1336戸の和紙製造家があったとのことです。

この頃、冬の日差しに天日干しにされた小川和紙が陽の光に輝く姿はまさに千両にも値する、ということから「ぴっかり千両」という言葉が誕生しました。

当時は村中が紙を干す白さに染まり、地場産業として大きな利益が生まれていたようです。

しかし、明治時代に入り洋紙が流入すると、製造に手間がかかり大量生産にも向かない和紙の需要は減少し、世界恐慌の影響もあり、大正〜昭和初期にかけて約3分の1の和紙製造家が廃業することになりました。

 

 第二次世界大戦末期、日本からアメリカ本土に爆弾を積んだ風船を飛ばし、現地で爆発させて攻撃する、という嘘のような本当の兵器「風船爆弾」の製造が本格的に始まりました。

風船爆弾に使われる「気球紙」には小川和紙が使われることになり、一時的に和紙づくりが活性化したものの、終戦とともに風船爆弾の製造が終了し、小川和紙の生産量も再び減少していきました。

 

 小川和紙の原材料である楮(こうぞ)の国内収穫量は1965年から1975年の10年間で4分の1に減少。

現在では下げ止まっているとはいえ、和紙づくりの伝統を残すためには需要喚起の新たな取り組みが必要とされているといえます。

 

2. 小川和紙の種類とは?製造法とその特徴をご紹介

小川和紙の種類とは?製造法とその特徴をご紹介

 小川和紙は、その製造法によっていくつかの種類に分かれています。

本章では、小川和紙の製造法とその特徴をご紹介いたします。

 

2-1. 手漉き和紙

職人が丹念に11枚手作業で漉いた和紙です。同じ紙は二つとなく、唯一無二の風合いを楽しめます。手作業なので、生産できる量はとても少ないです。

 

2-2. 流し漉き

流し漉きとは、竹の簾桁を使用する日本独自の製紙法で、平安時代初期にはその技術が確立したと言われています。漉舟(紙漉き槽)に水を張り、ほぐした楮とトロロアオイの粘液を混合したものを、簾桁をリズミカルに動かして漉き上げていきます。比較的薄い紙に仕上がります。

 

2-3. 溜漉き

竹ではなく金属製の簾桁を使い、ゆっくりと回すように漉き上げる製紙法です。比較的分厚い紙に仕上がります。

 

2-4. 機械漉き

大型機械で和紙を大量生産する製紙法です。大量生産ができないという和紙づくりの課題を解決するために誕生した方法です。

 

3. 小川和紙と細川紙の違いとは?

小川和紙と細川紙の違いとは?

 小川和紙と同一視されがちな埼玉県比企地域の和紙に「細川紙」があります。

本章では、小川和紙と細川紙の違いと、細川紙が登録されたユネスコ無形文化遺産について紹介いたします。

 

3-1. 細川紙とは?

 細川紙とは、小川和紙の種類のうちの一つで、小川和紙を代表するものです。

埼玉県比企地域の和紙づくり自体は、前述の通り奈良時代には始まっていたと考えられていますが、細川紙に関しては別の歴史があります。

もともと紀州高野山の細川村で漉かれていた「細川奉書」の良質な技術が、江戸時代中期に紙の消費量の多い江戸にほど近い、現在の埼玉県小川町や東秩父村周辺に伝わったのが、細川紙の始まりです。

江戸の商家や町方・村方の帳面用紙、庶民の生活必需品として好まれ、見た目の美しさだけでなく耐久性も兼ね備えています。

 

3-2. 細川紙の基準とは?

 細川紙は、厳しい認定基準をクリアしないと名乗ることができない和紙ブランドとなっています。

埼玉県小川町と東秩父村で製造されているほか、国内産の楮のみを原料としていること、伝統的な方法と用具で作られていること、薬品漂白は行わないことなど、多岐にわたる指定基準があります。

 

3-3. ユネスコ無形文化遺産への登録

細川紙の技術は、1978年(昭和53年)に国の重要文化財に指定されました。

さらに、2014年(平成26年)には石州半紙・本美濃紙・細川紙の3紙が「和紙 日本の手漉き和紙技術」としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。

石州半紙は島根県、本美濃紙は岐阜県、細川紙は埼玉県に伝わる和紙づくりの技術で、共通点は原材料に国産の楮のみを使用しているところです。

和紙そのものではなく和紙づくりの技術が登録されており、埼玉県で初のユネスコ登録となっています。

 

4. 小川和紙の製造工程とは?

小川和紙の製造工程とは?

 小川和紙は、原材料にという植物を使用しています。

楮のことを現地では「こうぞ」ではなく「かず(「ず」にアクセント)」と呼びます。

この章では、その楮(かず)を使った小川和紙の主な製造工程についてご紹介いたします。

 

4-1. 楮の刈り取り

埼玉県小川町・東秩父村一帯には、古くから和紙づくりのために楮畑が点在しています。早春から育てられた楮は、冬には高さ数mまで達するものもあります。この楮の枝や葉を全て落とし、幹を和紙の原料として刈り取るのは毎年12月ごろです。

 

4-2. 楮を蒸す

刈り取りした楮を束ねて蒸します。

 

4-3. 楮を剥ぐ(楮かしき)

蒸した楮が熱いうちに皮を剥きます。この作業は「楮かしき」と呼ばれ、毎年1月ごろに行われます。

 

4-4. 削る(楮ひき、かずひき)

和紙の原料の楮の黒皮を白皮へと削る工程を、小川和紙づくりでは「かずひき」と呼んでいます。皮の一番外側は、寒さ暑さから身を守るための部分「鬼皮」、その下の緑色の部分が「あま皮」、その下が和紙づくりに必要な部分「白皮」です。

 

4-5. 煮る

楮の白皮をソーダ灰で2〜4時間ほど煮込みます。

 

4-6. 晒す

煮込んだ楮の白皮を水に晒し、アクを抜きます。

 

4-7. ちりとり

アク抜きの済んだ楮の皮から、さらに不要な部分を取り除きます。繊維についたちりや不良な繊維を、指先で丁寧に取り除きます。この作業を丁寧に行うことで、より白い和紙になります。もちろん全て手作業です。

 

4-8. 楮叩き(かずうち)

ちりとりの済んだ楮を「楮打棒・木槌」で叩きます。楮の繊維が綿のようになるまで叩きほぐしていきます。従来はもちろん手作業でしたが、現在は和紙づくりの全工程のなかで唯一機械化されているそうです。

 

4-9. 和紙漉き

ここがいわゆる「和紙漉き」の作業になります。漉舟(紙漉き槽)に水を張り、ほぐした楮とトロロアオイの粘液を混合し、「簀桁(すげた)」で一枚一枚丁寧に漉き上げていきます。

 

4-10. 絞る

漉き上げた紙の水分を、ゆっくりとしぼり取ります。

 

4-11. 紙干し

水分をしぼりとった紙を、一枚一枚空気が入らないように「干し板」に貼って、天日干しにします。乾いたらようやく小川和紙の出来上がりです。

 

5. 小川和紙の新たな取り組みとは?

小川和紙の新たな取り組みとは?

 このように、小川和紙漉きの技術は奈良時代まで遡れるとても長い歴史を持った「伝統の技」であるものの、近年の和紙需要の減少の影響で和紙漉きを生業とする家は激減し、存続の危機を迎えています。

現在では、自治体が「小川町和紙体験学習センター」を運営管理して和紙漉き体験や工房見学を受け入れたり、和紙職人の組合である「埼玉県小川和紙工業協同組合」に楮畑の管理や職人の育成を委託したりなどの取り組みを進めています。

 さらに、徐々に進んでいる楮畑の耕作放棄を食い止める対策として、楮を和紙づくり以外に活用するという新たな取り組みも進んでいます。

小川町の楮の芽には、タンパク質、ポリフェノール、カルシウム、食物繊維など豊富な栄養素が含まれていることから、食材としての活用が期待されています。

 

6. まとめ

 本記事では、小川和紙の歴史や種類、製造工程から、今後期待されている新たな取り組みまでまとめてご紹介いたしました。

特に、小川和紙の原料として育てられてきた楮を、和紙づくりではなく食材として活用する取り組みは注目を集めています。

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