その独特の手触りや風合い、強靭さで、世界中の人々を惹きつけてやまない「和紙」。
皆様は、和紙がどのような原料を使ってできているかご存知でしょうか?
中には小学生のころ社会科見学で紙漉きをした、という方もいらっしゃるかもしれませんが、どのような原料をどのように使って作っていたかまで覚えている方は多くはないのではないでしょうか。
本記事では、和紙づくりで使われる原料となる植物と、その特徴や使われ方についてまとめてご紹介いたします。
[目次]
- 和紙の原料とは?代表的な植物をまとめてご紹介
- 和紙の原料・楮(こうぞ)の特徴と使われ方
- 和紙の原料・三椏(みつまた)の特徴と使われ方
- 和紙の原料・雁皮(がんぴ)の特徴と使われ方
- 和紙の原料・黄蜀葵(とろろあおい)の特徴と使われ方
1. 和紙の原料とは?代表的な植物をまとめてご紹介
和紙は、製紙法が中国から日本に伝来した初期から、いくつかの植物を原料として作られてきました。
伝来する前の古代中国での紙づくりは、樹皮・麻くず・破れた魚網などの廃棄物を活用していたこともあったそうです。
日本に伝来後しばらくは麻が主な原料として使われていたようですが、やがて取り扱いが容易で、より増産に適した楮が使われるようになりました。
現在では、主に以下の3種類が和紙の原料として使用されています。
- 楮(こうぞ)
- 三椏(みつまた)
- 雁皮(がんぴ)
次章からは、この3種類の和紙の原料それぞれの特徴や使われ方を解説します。
また、和紙づくりの過程で混ぜ合わせられることの多い植物「黄蜀葵(とろろあおい)」についても合わせてご紹介いたします。
2. 和紙の原料・楮(こうぞ)の特徴と使われ方
楮(こうぞ)は、クワ科コウゾ属(またはカジノキ属)の植物です。
原産国は日本をはじめとするアジア一帯で、日本には製紙法と合わせて伝来したとも言われています。
「こうぞ」という名前が「紙麻(かみそ)」という言葉から来ているという説もあるそうで、そもそもが紙づくりのために日本各地で栽培されるようになった植物といえます。
楮畑では、早春から楮を育て始めます。
そのまま放置しておくと枝葉を茂らせながら5mほどまで成長してしまうので、5月ごろからは余計な芽や枝を剪定する「芽かき」という作業を行い、これが秋ごろまで続きます。
冬には高さ2〜3mで枝のほとんどない状態になるので、これを全て刈り取ります。
刈り取りが終わると楮畑には株のみがいくつも残っている状態となり、ここから翌年の早春に新しい芽が伸びていきます。
刈り取った楮は束ねて蒸され、熱いうちに皮を剥かれます。
皮を剥いた楮をさらに和紙づくりに必要な「白皮」へと削っていくのですが、この工程は、小川和紙づくりでは「かずひき」と呼ばれています(地域により呼び方は異なります)。
白皮になったらソーダ灰などで煮込み、アクを抜き、手作業でチリを取り除き、叩いてほぐします。
これも地域により呼び方は異なりますが、小川和紙づくりではこの工程を「かずうち」と呼びます。
かずうちが済んだら「簀桁(すげた)」を使い一枚一枚丁寧に和紙漉きの作業を行います。水分をゆっくり絞り天日干しにして、乾いたら和紙が出来上がります。
近年では楮を食材として活用する取り組みも進んでいます。
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3. 和紙の原料・三椏(みつまた)の特徴と使われ方
※画像はWikipediaより抜粋
三椏(みつまた)は、ジンチョウゲ科ミツマタ属の植物です。
原産地は中国の中南部・ヒマラヤ地方と言われています。
日本にも古くから存在してきましたが、和紙の原料としての活用が確認できる公式な記録は、戦国時代の慶長年間(1596年〜1615年)と言われています。
三椏で作る和紙は、キメが細かくしなやかで特有の手触りがあり、何より擦れや折り曲げに強いという特徴を持つことから、1879年(明治12年)から現在に至るまで日本紙幣の原料として使用され続けています。
国内では岡山県・徳島県・島根県で主に生産されていますが、生産地の過疎化や後継者不足などで生産量は激減しており、現在では約9割がネパールや中国などからの輸入に頼っているそうです。
4. 和紙の原料・雁皮(がんぴ)の特徴と使われ方
※画像はWikipediaより抜粋
雁皮(がんぴ)は、ジンチョウゲ科ガンピ属の植物で、楮と同じく奈良時代から和紙づくりの原料として使用されています。
名前の由来は「紙斐(かみひ)」が訛ったものという説もあるそうです。
四国・九州・静岡・兵庫などに多く分布しており、暖かい山中の日当たりの良いところに生える植物ですが、人工栽培が難しいことで知られているため、和紙づくりでは山中に自生している野生のものを使用します。
野生の雁皮は乱獲されすぎて収穫量が限られており、都道府県によっては雁皮類が絶滅危惧種等の指定を受けていることもあるようです。
雁皮の和紙は美しく貴重であったため、古代からしばしば高級品として扱われていました。
平安時代には「斐紙」「鳥の子紙」と呼ばれ、貴族の女性たちにかな文字を書くのに最も相応しい紙として愛用され、その美しさから「紙の王」と呼ばれたこともあったようです。
5. 和紙の原料・黄蜀葵(とろろあおい)の特徴と使われ方
※画像はWikipediaより抜粋
黄蜀葵(とろろあおい)は、アオイ科トロロアオイ属の植物で、オクラに似た花を咲かせることから「花オクラ」とも呼ばれています。
原産は中国ですが、野生原種はインドや東南アジアからオーストラリア北部まで広範囲に見られます。
国内では主に茨城県と埼玉県で生産されています。
トトロアオイの主に根部から採取される粘液は「ネリ」と呼ばれており、根を打ち砕いて水につけたものが和紙漉きの際の糊として使用されています。
この「ネリ」は和紙漉きのほか、かまぼこや蕎麦のつなぎ、漢方薬の成型などにも使われているようです。
小川和紙や細川紙で知られる埼玉県小川町では「小川町トロロアオイ生産組合」を設立し、生産の安定化に取り組んでいます。
楮と同様に、こちらも茎や葉を食材として活用する取り組みが進んでいるようです。
参考:朝日新聞2023年5月11日「和紙の原料おいしく活用 「トロロアオイ」小川町で生産後押し」
6. まとめ
本記事では、和紙の原料として使われている様々な植物をまとめてご紹介しました。
明治時代の洋紙の流入や、戦後の高度成長期の生活様式の激変の影響で、和紙の需要は減少の一途を辿っています。
しかし、本記事でもご紹介したさまざまな取り組みが各地で行われており、生産量の減少は近年では下げ止まっているともいえるようです。
和紙の新たな可能性を見出すとともに、和紙の原料である楮や三椏、雁皮、黄蜀葵などの和紙づくり以外での新たな活用方法も見つけ出すことで、ユネスコ無形文化遺産にも登録された和紙づくりの技術を後世に守り伝えていきたいですね。
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